Lattice in the Lettuce

The monologue of a scientist.

ガンホーはROの終焉を目論む

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面白い記事を見つけたのでトラックバックしておく。

記事は長すぎるので要約すると、パズドラで有名になったガンホーが10年あまり運営してきたラグナロクオンライン(RO)を無茶苦茶に改悪して、プレイヤー数の激減を招いたのに、失敗を棚に上げて四半期決算でホルホルしてる、というような内容。

記事は中々良いのだが多くのプレイヤーがそうであるように、この人もまた「ガンホーは失敗している」という先入観に立って書いているように思える。

しかし本質は、プレイヤーサイドに立っていても分からない。一連の動きはすべて、ガンホー経営陣及び株主を相手とした、「RO運営チームのゲーム」と考える事で説明出来るようになる。


私はかつて、ROのチートとRMTについて記した本の中で、ガンホーを褒めた。商業的に、ROは非常に優れた運営手法を採っている。プレイヤーをゲーム中毒に陥れ、廃人を量産して吸い上げる手法は、今でこそ陳腐化したものの、当時としては画期的だった。その運営手法の鮮やかさは今なお衰えていないと思う。

ROの致命的問題

ROは韓Gravityの生み出したMMOである。ガンホーはその運営権を日本で取得した後、最終的にGravityを買収し傘下とした。

しかしながらこの時点、あるいはそれ以前の時点で、ROの初期開発陣営はGlavityから居なくなっていた。彼らは根幹にあたる部分、AEGISと呼ばれるサーバープログラムのソースコードを隠したまま、Gravityを去った。

ROは、通信プログラムとしては最悪に近い設計になっている。開発された2002年当時の水準としても酷いものだった。パケット構造が特に酷い。デリミタのない可変長データで、先頭2バイトにデータ長と内部命令の種類が書かれている。冗長検査用のデータもなければ、訂正も出来ない。パケロスすると画面が止まるし、最悪コネロスさえ起きる。酷い構造だがあまりに単純、さらに符号化されていなかったオマケも付いて、様々なツールやBOTが作られる結果を生んだ。

ガンホーや、当時のGravityとしても、この酷いパケットは何とかしたかっただろう。出来なかった理由はソースコードやFrameworkの仕様書が失われていたからに他ならない。Framework仕様書の失われているプログラムは、一から作りなおした方が手っ取り早いほどに酷い状態と言える。かといって、複雑な通信プログラムを挙動の目視のみを頼りに作り直す事は途方もなく難しく、不可能に近い。この点はパケットのみならず、他の様々な機能追加等にも悪影響を及ぼした。

幸い、AEGISのZoneサーバ(ゲーム演算用サーバ、マップサーバの事)は機能拡張のためのスクリプトエンジンを内蔵していたため、こちらを修正したり追記することで、ある程度の機能実装は可能だった。しかし根幹的な部分、例えばBOXの問題(mobのPCへの隣接パターン)や、ノックバックに関する部分、射線に関する部分、露店(バザー)の機能拡張、パーティ関連の機能などは修正が不可能で、スクリプトである程度補っているものの、根本的なフィックスが行えていない。

旨みを失ったMMO

こうした背景もあり、ガンホー特に運営チームとしては、元々ROをあまり美味しいコンテンツだとは考えていなかった。ソースコードや仕様書があればFrameworkを使って簡単にcoding出来るところ、ROではスクリプトを修正して挙動確認を行う、暗闇を手探りで歩くような作業が必要で、開発費が他のMMOに比べ遥かに大きかった

そこへ来て、パズドラの成功とMMOコンテンツ全体のシェア縮小問題に直面した。何もしなくても、ROはいずれ近いうちに終焉を迎えただろう。問題は、いつ終焉させるか、だった。

一般に赤字転落する商材には、生産者自ら引導を渡す場合が多い。特に日本社会においては、赤字商材という物も数字上は「努力によって」一定の利益を生んでいるように見える。しかしこの「努力」が曲者で、本当の赤字額が数字に現れず、現場のみぞ知る形になってしまうケースが多い。

ズルズル引き摺って大損するのは、会社よりも現場スタッフになる。株式公開している企業では尚更で、なぜテコ入れしなかったのか云々と叩かれる。それはそっくりそのまま現場スタッフの人事考課へとフィードバックされる。つまり努力が仇となる。

赤字商材をエンドさせうるのはトップではなく、現場の意向なのだ。ただし、現場の人間は稟議にしても何にしてもだが、自分たちには決定権がない。決定権を持つ人間を納得させ、決めさせるしかない。どうやって決めさせるのか?それを書いてみよう。

予算と来期プロジェクトの決定時期

パズドラが成功しはじめた時期は2012年4月であり、社内的に成功を確信した時期は10月頃、株価の上昇は11月からである。この時点では、ROでも既に2013年度予算の具体的な算段、大プロジェクト、一箇年計画の概要決定が始まっている(無料鯖はここで決められた)。

大した理由もなしに、大幅に予算を減らす事は出来ない。つまり2013年度は間に合わず、2014年度予算をカットする(させる)しかない。

予算というものは取締役会で最終決定されるもので、その予算申請額には論理的な理由付けが必要だ。予算を増やすには、「今後いかに売れるか」という理由付けがいるし、逆に減らすには「いかに見込みがないか」と説明しなくてはならない。終焉に向けた動きは、全社的ではなく、予算申請を行う現場レベルで始まる。

2度目のリニューアルと終焉戦略

終焉を効果的に導くには、シェア率の低下、具体的にはプレイヤー数の激減を招く事が不可欠となる。その現場レベルでの決定は、2012年10月頃に起きていると考えられる。

この時期には、通称RRと呼ばれる、ゲームバランスを著しく変更する大規模パッチがあった。このパッチの一番の目的は、AEGISの根幹的問題、1回の獲得経験値が24bit(?)で表されており、桁あふれを起こす場合があるというケースを改善するために、獲得経験値・既存経験値量の数値を1/10にする事であった。ソースコードさえあれば、実質数分程度で済んだであろう修正を、大型パッチにしなければならなかった。

加えて以後こういった問題を起こさないように、高効率で経験値獲得の行えるクラスに修正を行った。経験値計算式も同時に変更している。ここらへんはすべて、SQLのデータベースとAEGISのスクリプトベースで行える。

本来、RRのパッチ内容は大変論理的であり、小学生でもすぐ分かるような不具合を残すはずはない。バグとして残るのはスクリプトとAEGISの兼ね合い的な問題になるはずだ。しかしながら終焉作戦の第一段階として、このRRパッチに「とある不具合」を忍び込ませたトラックバック先に書いてある、一部mobの傑出した経験値効率、である。

一部mobだけが強烈な経験値効率を出すのであれば、当然そのmobがいるマップだけが人気になり、他は廃れる。mobの種類によって適応クラスとそうでないクラスに決定的格差が生じ、非適応クラスを主とするプレイヤーから反感を買える。

これが意図していない不具合であるなら、当然すぐに修正される。経験値数など、SQLの記述を変えるだけで、その気になればメンテ時に1分でフィックス出来る。それなのに、プレイヤーがいくら報告しても修正されなかった。つまりそれらは、意図的に行われたものである。

この件について、「ガンホーは馬鹿だからやってない」というような事を言うプレイヤーが非常に多い。こんなクリックゲーを喜んでやってるプレイヤーが想像することだから、馬鹿な発想になるのは当然だが、ガンホーの社員は少なくとも、ROで遊んでる奴よりは遥かに頭は良い。

加えて、SQLをほんの1分弄るだけでフィックス出来る事である。仮にプレイヤーからの報告を見過ごしていた、などという事であれば、カスタマーチームは始末書を書かされるハメになるだろう。そうならなかったのは、現場の上の方から指示があったためと考えるのが妥当である。

話が逸れたが、マップにおいてアンバランスな構図が生まれる事は、プレイ意欲の減退に繋がり、当然プレイヤー離れが起きる。とはいえ、2012年はまだ第三四半期決算、期末決算が残った時期でもあり、あまり派手な終焉プランは組めなかった。

2012年度中にあまりに減らすと、年初目標が達成できず、運営チームの人事考課に響くためだ。2012年に達成しておくべき目標は、2013年度年初のプレイヤー数(つまりベンチマーク)が2012年度目標範囲内には収まり、尚且つ2013年に赤字転落させた場合でも人事考課に影響の出ない数に抑える事だった。

この目論見が成功したのか、その後2013年3月までのイベントは、当初の想定通りに行われた。本格的な畳みに取り掛かったのは、2013年度に入ってからである。

プレイヤー殲滅戦略

ROは、他の一般的なキムチMMO同様、mobをクリックする「狩り」を行ってドロップを拾って売り、装備を買って仲間内で戦争ごっこ(GvG)して遊ぶゲームである。
まぁ最近はハイブリッド課金なる、運営RMTと平行して月額課金も行っているようだが。

それはいいとして、mobを狩る意欲を減退させる事が終焉への近道となる事は事実である。いきなりGvGを潰してしまうと、あまりにドカンとプレイヤーが減り、社内的に問題になる可能性がある。プレイヤー殲滅は加速的なカーブを描くよう行う事が大切だ。

急激にガクンと減るのは、何か問題があったから、と考えられがちだが、一定、あるいは加速的な減少は末期のゲームによく見られ、説明が容易である。

赤字転落ベースラインを引き、2014年度予算の立案が始まる9月までに、緩やかな赤字転落を目論んだ。赤が数ヶ月続き回復の見込みも薄ければ、次年度に予算削減と終了プランを組み込める。

まず初めに行ったのは、高効率を出せる一部のクラスのメインスキルを封じる予定告知と、その見せしめを一つ作る事だ。実例として、先の高効率mobを主食とする「アサシンの上級クラス」が選ばれ、スキルが大幅に弱体化されて使い物にならなくなった。同時にアサシン武器を1回1500円もする有料クジに入れて、プレイヤーに買わせた直後に弱体化する卑劣な技も披露した。予定通り、そのクラスをメインとするプレイヤーは憤慨した。

実際に弱体化されたのはそのクラスだけで、他の主要クラスの弱体化は、いずれ行うとだけ告知した。実際にはそんな作業は行わない。告知するだけでプレイヤーへのプレッシャーは十分過ぎる。放置する事で不安感を抱かせられ、キャラクターを育成する意欲の減退につながる。それ以上は労力の無駄、プレイヤーなど騙せれば良いのだ。
もちろん、あと1つか2つくらい、見せしめを作ってもいい。減りが予想より少なければ。

次に、昨年度まで行っていた通称DDという経験値バラマキイベントを今年度はスルーした。ROは経験値バラマキイベントの時だけプレイヤーが一時的に増えるという末期状態のMMOなので、スルーすれば当然、落胆したプレイヤーが辞めていくだけ、減りはしても増えはしない。

順調にプレイヤー数が毎週1000名程度減って行く中、4亀(だったかな?)の記者が(恐らく嫌がらせで)「今年は経験値バラマキしないんですか?」だの質問した。やらないなんぞと言ってしまえば、株主総会でのツッコミを経て責を問われる危険性があるので、「もちろんやります」と返事しておいた。

かといって、そのイベントで増えてしまっては元も子もない。せっかくの努力がフイになる。そこで、凄く不味くてつまらないイベント+露骨に課金アイテム購入を誘って反感を招くイベントを企画した。実装されたのは昨日だが、予想通りプレイヤーの阿鼻叫喚が見られた。

昨日行われた四半期決算で、目論見通りMMO部門で3600万の赤を出せた。RO単体ではさらに大きい額だろう。10月くらいまで赤を出し続けられれば、来年の終焉が見えてくる。

騙される各者

あからさまにプレイヤー離れを起こすようなパッチやイベントを打ったら、その責を問われるのではないか?と思われるかも知れないが、それはない。
上層部も大株主も、プレイヤーではないからだ。大株主へ告発状を送るようなとんでもないプレイヤーが居れば別だが、プレイヤーでない人間へ実態を解説する事は、途方もなく大変であり、大抵は怪文書的内容で終わる。

結局、上層部も大株主も、運営チームからの報告を鵜呑みにするしかない。仮にバレたとしても、赤字コンテンツの存続と損切りどちらを取るかと問われれば、長期にダラダラと赤字を垂れ流すより一刀両断してしまう方を喜ぶだろう。

一方のプレイヤーには、運営チームはアホであるという口実を与えておけばいい。元々、ボクの考えたROをプレイヤーに妄想させる事によって運営に対するプレイヤーサイドの優越感を味わわせ、ゲーム中毒患者を量産する事で人気コンテンツへと押し上げたのである。同じ手法によって、円満な終焉を導く事が出来る。ボクが考えた通りに運営してたらROはもっと良くなってずっと続いたのに、運営がダメ過ぎた、と。

今後どうなるか

赤は、あまり強烈に付けると、やはり責を問われる場合がある。そうさせないためには、ある一定のところで押さえておく必要がある。現在のレートでの減り方では、年末までにゼロ近くまで落ち込み、今年度の想定赤字をオーバーする危険性が生まれる。そこで、想定まで減ったところで「良イベント」を打ち、歯止めをかけることが予想される。

ガンホーは失敗などしていない

ガンホーやROの運営チームは馬鹿ではない。最初にも述べた通り、プレイヤーをネトゲ漬けにして搾取する戦略を2002年当時編み出したのは、非常に画期的だった。大学すら出ていない、出ていてもまともな社会人になれていないエサ達に優越感を与え、その自己愛性や自己顕示性を手球に取るような手法(例えば要望フォーム類の拡充など)を用いてROを運営してきた彼らが、エサに劣るはずがない。

少なくとも運営チームは今、ROを終わらせるために、取締役会や株主を納得させうる理由作りを行っている真っ最中である。この理由を元に来年度の終了を打ち出す可能性は非常に高い。

未だ、プレイヤーはガンホーの手のひらで踊っている。