Lattice in the Lettuce

The monologue of a scientist.

クロスセクションの意味

人が物を見るとき、形を認識するとき、それは主にサーフェイス(表面)を知覚している。当たり前のことだが、物にはもう一つの面としてバルク(内面)が存在する。そのバルクを見る方法としてクロスセクションがある。

クロスセクションをググってみると、いきなり経営手法が出てきたりするが、本来は顕微鏡(主にSEM、走査型電子顕微鏡)の試料を作る方法の一つである。クロスセクションには求めようとする解によって、大きく分けて二つの作成方法があるのだが、なぜか片方の方法だけが一般に取り上げられる。

それはポリシング(研磨)によって輪切りの平面を作り出すという方法。カッターで切るやり方から樹脂注型研磨、ミクロトーム法、イオンミリング法(クロスセクションポリッシャ法)、FIB(フォーカスドイオンビーム)法まで様々なやり方が存在するが、いずれもポリシングした平面を見る事に変わりはない。

一応、内部の平面を見るというのは理に適っているように思える。樹脂に分散させたフィラーのアグリゲーション(凝集度)を確認する際や、FIBを用いてその立体構造を求めパーコレーション(伝路)を見る際には、このタイプのクロスセクションが妥当だ。

しかしながら、バルクの強度のメカニズムを類推する際などにはまったくもって不合理である。もちろんボイド(空隙)だらけになっているような構造を仮定するなら良いかもしれないが、コンポジションの破壊モードを観察したいのに、ポリシングなどしてもまったく意味はない。

その際には、フラクチャサーフェイス(破断面)を見る。先に挙げたような複雑な装置は用いず、液体窒素(場合によっては液体ヘリウム)でコチコチにして、ハンマーで砕くだけ。小さいサンプルならピンセットで割ってもいい。

こうして得たフラクチャは「一番自然な断面」であり、物がどのように壊れたのか=どのようにバルクを形成していたのかを表面的に示している。

顕微鏡というものも、凹凸を見ることに特化しているため、こちらの断面の方が実は見やすい。平面化させたポリシング面と比べ遥かに情報量は多い。二次電子像、反射電子像、EDS、WDS、その他大抵の観察・分析方法において破断面は有利である。
例外として完全な分析であるIRやらESCA、SIMSなんかは平面でないと辛いが。

さらにフラクチャ表面観察では、平面でやりづらい、原子番号が近い組成同士を反射電子像で観察しなくてはならない、なんて状況にも陥りにくい。化学分析前提ならともかく、力学特性の把握にはフラクチャの方が数段優れると思う。

どうしてフラクチャが廃れてしまったのか?それは平面化するポリシングは色々と金がかかるからだろう。
機械を買ってきて自分でやるとすると、カッターならタダに近いが、樹脂注型で100万以上、ミクロトームで数百万、イオンミリングで1000万、FIBに至っては数千万〜数億と、とんでもなく金がかかる。金や場所がなければ受託へ依頼するが、こっちも1サンプル数万〜数十万、FIBして伝路解析して動画作って云々やったら、たった1サンプルの解析で高級車が1台買えるくらいの金額になる。

こういった装置を販売している日立やら日本電子やらSIIやらのお陰で、クロスセクションといえばポリシング面である、という間違った認識が広まったような気がする。

日本電子のwebにはCP法でのクロスセクション作成が書かれていたりするが、フラクチャについては書かれていない。顕微鏡観察のマニュアルとして書かれているからタチが悪い。

機械を売りたいだけなのか、テクニックを教えたいのか、どっちなんだろうか。