Lattice in the Lettuce

The monologue of a scientist.

平均場近似 セルフコンシステントとは

その昔、ヒッポファミリークラブという団体が数学の話をちょっとやったことがあった。ググると、元々も今も語学系のなんかやってる団体ぽいが、フーリエ級数からフーリエ変換あたりまでのネタを中学生相手に解説して、見事に問題を解かせていた。その本が出版されており、理工系大学の先生達が面白がってコピーをバラ撒いていたわけだが、この本の目的は、一見難しく見える大学レベルの数学も実は高校の教科書なんかよりも簡単な観点と理屈の上に成り立っていて、誰でも理解出来るものだと示す事にあると思う。

平均場近似

現代の物理学では、この言葉が結構出てくる。量子物理・物性物理に関係なく、粒子系を定義した場合、平均場近似で解くのが流行っている。分子軌道法はもとより、物性物理の世界でもフローリー・ハギンス理論のような、混合系を粒子的に考える理論でよく使われる。よくは知らないが経済学なんかでも使われるらしい。

連続系定義である有限要素法は違うが、それ以外のシミュレーションでは、もう平均場近似をアテにした式の作り方、解き方が当たり前になっている。計算資源をバカみたいに食うので、デカいクラスタスパコン使って云々のプロジェクトには、まず平均場近似を使っているといっても過言ではない気がする。

だがwebや書籍で見る限り、あまり簡単に説明したものは見当たらず、その手のネタが絡むセミナーなんかでも、既に知っているものとして扱ってるのか、あるいはどうでもいいコトだとスルーしているケースが多い。なのでちょっと説明をしてみたい。

解けない式

中学生の時だったと思うが、連立方程式を習った。問題集を与えられて解いていったが、問題が不足すると、指名された生徒が適当に問題を作って黒板に書き、他の生徒がそれを解く、というのを繰り返していた。
この時の式の作り方は、x,yの式であれば、x,yそれぞれに適当な数値を考えておき、係数となるa,bに違った数を入れてやって、計算した答えを=で結んで連立させ最後にx,yの数値を記号に置き換える、といった感じになる。
ちょっとフザケた奴なら、a,bをそれぞれの式で倍数にしてやるというイタズラを思いつく。この式はx,yの値が定まらず、解けない式となる。いわゆる解が無数にあるもの、だ。=でデタラメ数値を書いてやって、解なし問題もいいが、その場合はよっぽど上手くやらないと「やる気でやった」のがバレるから、怒られるハメになってよろしくない。

この解けない式、解が無数にある式というのは、高校生までの数学ではまず出てこないと思うが、高等数学ではザラに出てくる。その解法の一つが平均場近似、そしてセルフコンシステント(自己無撞着)式である。この方法はとても簡単に言うと、「都合が良い値が真値に近いんじゃねーの」という解法である。

セルフコンシステント

先の連立式でセルフコンシステントを行うには、まず条件を設定する事になる。例えばx,yはいずれも自然数で、なおかつx-yの絶対値が最小のもの、というような条件だ。

2x+y=10
4x+2y=20

という式であれば、x=1のときy=8、x=2のときy=6、x=3のときy=4・・・と解がいくつもある。自然数でこれだから、限定しなければ無数に解が存在して解けなくなる。
ところが先の条件では、x-yの絶対値は7,4,1・・・であり、解が存在出来る事になる。条件の元、適当に計算を何度も繰り返して条件に合致するものを見つけ出す、それがセルフコンシステントである。

などと適当なコトを言うと、計算科学者からイチャモンが付くかもしれない。知ったかぶりをするなと。
だがよく考えてみて欲しい。ここでは、x,yの振動について扱っている。振動とは、空間座標の中で時間に対し自由な変化を行っている系を言っている。x,yが定まらないということはつまり、様々な任意の値を取って変化し続けている事を意味する。
そこで不確定性原理が成り立ち、収束させるために2つのアイディアが生まれる。1つは微分的に⊿を求める考え方、もう1つは条件をつけるやり方だ。変化が一定のアルゴリズムに沿って進行するのなら前者を、そうでないなら後者を選ぶべきである。
例えばモノマーの構造を最適化するということは、系のエネルギーが最低となる原子間距離と原子配置、そして電子雲、分子軌道の配置を求めるコトになる。この、系のエネルギーが最低になる、という事こそ条件であり、解が定まるわけだ。エネルギーはいくらでもいいよ、なんて言ったらセルフコンシステントは成り立たない。モノマー同士の反応を問う場合には、各モノマーの座標を定義した上で、同じように最小のエネルギー値を求めている。先の連立式と、考え方的には何の違いもない。

簡単な解説書

フーリエの冒険のあと、ヒッポファミリークラブは量子力学の冒険と題する本も出した。こちらの方はフーリエの冒険ほど丁寧な解説とは言えず、現在ではもっと面白い解説本(漫画なんかも)が出ているので、特筆には値しないと思う。
寝ながら読める簡単な解説書は、現在では多岐に渡って書かれているが、存在しない分野というのもある。例えば、フォトンの解説書は腐るほどあるのに、フォノンの解説書はまったく見当たらない。学術的に書かれたものがほんの少々あるに留まる。日常生活の中では、フォトンなんかよりフォノンの方が遥かに多く登場するはずなのに。
フォトンの本にしても「フォトンって普段はどこにあるの?」「電子の表面にいっぱい張り付いてまーす」みたいな問答はない。書いてる奴が知らないのか何なのか。

何か機会があれば、フォノンの簡単な解説書を出してみたいものだ。