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Lattice in the Lettuce

The monologue of a scientist.

シミュレーションとデータマイニング

以前、メソスケールのような中間サイズ(分子〜計算工学の手前まで)のシミュレーションの主な使い途はメカニズムの把握にあると書いた。この考えは今でも変わっていないが、最近読んだ論文に、データマイニングへの応用というものがあった。

http://bussei-kenkyu.jp/pdf/03/3/9999-033212.pdf

考え方としては大変面白い。データベースにせよ、そうでないデータの集合体にせよ、今後のコンピューティングにおいてマイニングという解析・収集技術は欠かせないものになるだろう。とはいえ、現在の分子シミュレーション、メソスケールシミュレーションはまだまだ、到底そこまでは行っていないのが現状ではある。

上記文献中で、著者の方はモデル・スコープという言葉を用いている。私の考えではモデルがそのままスコープとは成り得ず、モデル化された物をいかなる視点で観測するのかがスコープだが、現状の科学におけるシミュレーションにおいてほとんどの場合、モデル化は実験による切り分けが有効である。

現状のシミュレーションは実験頼み

シミュレーションをするには、とにかく実験でありとあらゆるデータを集め、十分に解析を行って、現象がいかなるメカニズムによって動かされているのか、おおよそのアタリを付ける必要がある。
恐らくこうなんじゃないか?たぶんこういう仕組みだよな、と頭の中で組み立てていく過程の中で、その証明を行う一番簡単なモデルを想定する。

シミュレーションはそのモデルを視覚化するツールの一つでしかない。

スコープがモデルの平面あるいは平滑断面をズーミング(この考え方は土井正男先生の言うズーミングだ)可能なら、SEMなりTEMなり、IRなりESCAなりXRDなりTOF-SIMSなり・・・で観察、分析可能ということだから、シミュレーションを用いる必要はない。

立体構造の解析が必須な場合も、系の大きさがミクロン〜サブミクロンかつ無機あるいはコンポジションならFIBを使えばいい。

よく、シミュレーションを用いたいばかりにCNTやら結晶やらの構造を持ち出して、実験でも証明出来そうなネタをこねくり回した論文があるが、量子力学やら統計力学をあまり学んでない向きに説明するなら、まったくもってシミュレーションは不適切であるケースが少なくない(分子構造図や実験で成し得ない弾性体の高ひずみ域の議論は、あくまで絵としてならシミュレーションは役立つけれど)。

シミュレーションでしかどうしても分からない分野は限られる。アモルファス中に繰り返し構造を見出したガラスの件や、東北大の岡部先生(彼は生い立ちから何から私とそっくりなのに、私など足元にも及ばないほど頭がいい。彼の書いたベクトル解析の教科書は一読の価値がある)がやったように、架橋性樹脂固体中の高分子ネットワークの解析といったような、モデルが3次元をベースとしなければならず、かつ複雑系にしか落とし込めない場合、薄膜も作れなければ表面の原子をふっ飛ばしても蒸発させても何の意味もない分野でなら、役に立つようには思う。

がしかし、J-OCTAを試用して思ったことは、実験によるモデル化とスコープの設定がいかに大切か、という事だった。

何かの現象を捉えたなら、その解析方法を十分に吟味してから、どういったツールを選ぶか、結局ここに帰着するのだ。

二次元に落とし込める系にシミュレーションはいらない。
三次元でも結晶を議論する場合は、やはりシミュレーションはほぼいらない。
三次元でかつ分子鎖が複雑系である場合、シミュレーションは役に立つ。

今後数十年先には、シミュレーションをさらに進めたマイニングが可能になるように思う。実験による、主観を多く含んだデータはマイニングの対象としては、非常に厄介なものだろう。比べて、シミュレーションに拠ったデータは、すんなりとマイニングの対象に出来るはずだ。

マイニングのような手法によって、プロヴィデンスが破壊される日が来ることを願う。