Lattice in the Lettuce

The monologue of a scientist.

SP値 HansenSPに関する考察

前日少々SP値の話をしたが、最近評価されつつあるSP値導出法にHansen法がある。これについて少々議論する。教科書的なHSPについては、
http://www.pirika.com/JP/TCPE/SP-Theory.html
を参照して頂きたい。なおHansen先生の業績はノーベル賞クラスだと思う。

HansenのSP値というのはHildebrandを拡張したもので、スカラー量だったSP値をベクトル化したものとして知られる。
三次元ベクトルの軸は分散項、分極項、水素結合項であり、それぞれファンデルワールス力によるもの、双極子モーメントによるもの、水素結合によるもの、という3つの分子間相互作用で記述される。

化学を知る人なら、これはすなわち分子間力の分解のうち、イオン間相互作用を除く3点と気付くと思う。つまり分子間力の強さ的には

水素結合項>分極項>分散項

が成り立つ。

混ぜる事を微視的に捉えた場合(ミセルだベシクルだクラスターだ云々取っ払って)、混ざる混ざらないは分子間相互作用から導けると言える。

ここでベクトルの数値解析的な話を少ししよう。ベクトルをスカラーに直した時に一番寄与の大きな項は、そのベクトルが持つ軸のうち一番大きな数値を持つ軸、と分かる。HSPによって合成的に求められるSP値はHildebrandのSP値と同義(Hildebrand SP^2= dD^2 + dP^2 + dH^2 )なのだから、言ってみればHildebrandのSP値とは水素結合項だけで成り立っているようなもの、と見当が付く。

Hildebrandだと、双極子モーメントは味付け、ファンデルワールス力は隠し味に過ぎなくなるということだ。ところがHansenではその2つによって軸が拡張されるから、味付けどころではなくなってくる。Hansenが実験結果をよく再現すると仮定すると(実際かなりの確度で合うんだけど)、Hildebrand SPで値が似ているにも関わらず混ざり合わないものは、双極子モーメントとファンデルワールス力のせいで混じらない事になる。

さて、少々乱暴な議論をしよう。
この、Hildebrand SPは似てるけど混じらない物同士を「無理やり混ぜた場合」どうなるか。ンな事出来るかよって、実は出来る(ミセル等のカプセル化によるわけではなく)。流動性を落として(関係ない固形物をいっぱい入れる)熱をかけ、さらに高せん断をかけると、う〜ん濁ってるけどなんとなく混じってるよね〜なモノになる。熱は特に重要で、常温では交じり合わないものも高温では交じるということが少なくない。水に溶けないインスタントコーヒーがお湯だと溶ける理屈である(なのでSP値の議論は常温において、と注釈がつく)。

が、何をやってもやっぱり混じらねーものもある。こういった物は何がマズイのか・・・と、先ほどのベクトルの話に戻ると、水素結合項の次に重要な分極項の寄与が疑われる。極性が大きく違うものは混じらないよね〜、な当たり前の話だが、なんで極性違うと混じらないのか、HansenSPは上手く説明出来る。当然逆に、極性同じでも混じらないものに対して水素結合項を用いて説明することも可能だ。

HansenSPでは、分極度をスカラー量として考えるが、元となっている双極子モーメントはもちろんベクトルなので、分子の向いている方向によって(微視的には)反発力が大きく変わる。もちろん巨視的には平均化されるが、それは系の熱に比例し、分子鎖の長さや骨格の剛直さ、及び分極度に関して混ぜた物の割合に反比例する可能性が高い。こういう議論はMD(分子動力学)で、統計集団を用いて分子間相互作用求めると良いのかもしれない。MDならSPで出来ない温度制御も可能だし。
http://apollon.issp.u-tokyo.ac.jp/~watanabe/pdf/mdthermo.pdf

それはともかく、別にSP値の話じゃなくても、MDやる上でもこのページは非常に参考になる。
http://www.pirika.com/JP/HSP/index.html

HansenSPの導出には、上記からも飛べるHSPiPが役に立つ。代表的な数十種の溶媒への溶解性より推算する手法、及びFedorsのように原子団寄与法で推算する手法がある。フリーではないが個人でも買える程度の価格だ。Winmostarと合わせて、理化学系の研究者なら持っておいて損はないと思う。