読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Lattice in the Lettuce

The monologue of a scientist.

セラフィット 大嘘エセ科学フライパン

科学

本当はこんなものを書いてる場合ではないが(技報の締め切りが今日中)、巷で噂になってるセラフィットというフライパンについてちょっと。何をどうやったらこんな嘘っぱち書いて売れるんだ?と、化学屋なら誰でも思いそうなエセ科学商品である。

まず、セラミックという物が、何ら特殊なものではない事を説明しよう。

セラミックスの特徴

巷でセラミック、セラミックスと呼ばれているのは、無機物を高温で焼き固めた焼結体、いわゆる陶磁器(狭義には磁器のみ)の事だ。早い話、ダイソーで100円で売っている皿はセラミックス製である。

材質としてはアルミナやジルコニア等あるが、一般的に使われるのはアルミナがほとんどである。炭化ケイ素なんかもセラミックスだが、価格がクソ高いのでハイブリッド車インバーターなんかに使う程度。シリカもセラミックスではあるが、普段あまりそうは呼ばない。

製法においては、ケイ素やアルミを焼結(燃やしたと言い換えても良い)させたものを言う。
低温(概ね1000℃以下)で焼結させると、空気中の水分を取り込んだ状態で水酸基が残り、ガラス質となる。水酸基は500℃以上であれば酸化されるはずだが、なぜか残る。ガラスが親水性なのは水酸基があるため。一般に言う陶器はガラス質である。
それに比べ高温(1000〜1500℃程度)で焼結したものは水酸基を失い、さらに結晶化もしており、疎水性かつ親油性になる。磁器というのはこのタイプだ。

セラミックスは後者で、簡単に言えば金属を高温で焼いたもの、といえる。

ちなみにホーロー鍋のホーローは、金属の表面にケイ素を低温焼結させたもので、言ってみればガラスコーティングのようなものである。セラミックスとホーローの違いは、高温で焼いたか低温かの違いになる。

さて、ホーローにしろセラミックスにしろ、その特徴は、硬い、耐熱、脆い、といった物で、接着しづらい、なんて特徴は存在しない。

焦げ付きのメカニズム

普段人間が食ってる固形物というのは、ほぼすべて有機物である。有機物というのは化合物の主要機能に炭素が深く関わる物の総称で、他に水素・窒素・酸素などを含む。これを空気中で加熱してやると、炭素だけが酸化し切れずに(酸化した分は二酸化炭素として飛んで行く)残ってしまい、グラファイト黒鉛)として残る。これが「焦げ」である。

グラファイトは薄い板のような分子構造になりやすく、板の間は水素結合によってくっついた構造になる。
これらが、水素結合、あるいは共有結合で鍋やフライパンにくっついたものが「焦げ付き」だ。

焦げ付きを防ぐには?

これだけ科学が進んだ現代においても、焦げ付きを防ぐ方法は2つしかない。

1つは、焦げのグラファイトとフライパンが直接接触しないようにする事。間に油を介在させると「直接は接触しない」ので、焦げ付かない。
もう1つは、テフロンのような、フッ素樹脂を使うものだ(フッ素樹脂がなんで接着性悪いのかについては長くなるので説明しない、あと離型剤の範疇ではシランも使われるがかなり特殊)。

この2つ以外に、現実的な範疇で、焦げ付きを防止することは出来ない。これは、よく憶えておいて欲しい。科学に詳しくない人を騙すエセ科学は、知らない事につけこんでありもしないデタラメを吹き込むものだ。

ちなみに、焦げ付きは焦げの周辺部は共有結合、それ以外の部分は水素結合でくっついている。
共有結合はかなり強固な接着のため、洗剤(界面活性剤)やら酸・アルカリ等では落ちにくい。落とすには物理的な力を使うしかない(要するにスポンジ等で擦って落とす)。

セラフィットとは

セラミックスは先に述べた通り、ケイ素やアルミなどを高温で焼いたものである。セラフィットの製法は想像に難くなく、フライパン状に形成したセラミックスの容器をアルミ製フライパンに貼りあわせたものだろう。

それを踏まえたうえで、その広告を考えてみる。

ダイアモンドの次に硬いセラミックを使用。だから、どんな食材も驚くほど焦げ付きません。


硬い事と、焦げ付かない事に、何ら関係はない。一般的に接着剤は、硬いものほどくっつきやすい。焦げ付きも同じ。なので、この文章はまるっきり大嘘。消費者を騙してるとしか言いようが無い。

熱伝導率がさらに向上


代表的なセラミックスの熱伝導率を示す。
http://www.kyocera.co.jp/prdct/fc/list/tokusei/denndou/
一方でアルミの熱伝導率は240W/mKであり、ここに載っているいかなるセラミックスよりも高い。つまりセラミックスを貼り付けたアルミフライパン「セラフィット」は熱伝導率が落ちる事になるので、真っ赤な嘘。当社基準と書いている事からも、自信のなさが伺える。

続いて、セラフィットの説明書内の文章。
http://garuchan.com/zatudan/3614/

油で慣らすと長持ちする

セラミックは先程も書いた通り、親油性である。テフロンのように油とも馴染まないものではない。鉄のフライパンを焦げ付かせずに使う方法は、油を馴染ませ必要以上に洗わない事だ。それと同じ事を言ってるに過ぎない。つまりこの説明文は「油塗ると焦げないよ」と言ってるだけ。

セラフィットは火が通りやすいので弱火か中火で

なぜ火が通りやすいのか根拠がない。さきほどの熱伝導率の話は大嘘なのだから、それ以外に根拠を示さなければこれも嘘になる。
高熱伝導を得るには表面の凹凸具合も絡んでくる(密着性と言う)。ただ、意図的にデコボコさせない限りフライパンの密着性なんて大差ないので、あまり影響はない。つまり、「アルミフライパンには劣るがセラフィットは火が通りやすい」と書くべきで、これも大嘘。

使った後はフライパンを冷ましてから洗う

これは、セラフィットに限った話ではなく、テフロン加工してあるフライパンにも言える事。テフロンフライパンが熱々のうちに、水をジャーとか掛けるのはテフロン膜を壊してるだけ。なぜ壊れるかといえば、下地素材(アルミ等)とテフロンの熱膨張係数(業界用語でCTE)が違うため、その応力差によってテフロン膜の接着が壊れてしまうためだ。

テフロンフライパン長持ちしねーとか抜かしてるバカ主婦のほとんどは、水をジャーっと流して、自分で壊しているだけだ。

セラフィットは焦げない?

ここまでのまとめだが、セラミックスは親油性が高いため油を塗りやすく、その場合、油が表面コートするので焦げ付きにくい、という事は言える。

油を塗り忘れたとか、洗い方が不十分で親水性を生むような物が残ってしまい(見た目ではまず分からないだろう、特に食器洗い機を使わず手洗いすると残渣が残りやすい)、そこに油が乗りにくくなった場合などは、すぐに焦げ付くだろう。

セラミックスに焦げ付かない(接着しづらい)などという特徴はない。

セラフィットはそれ自体に、焦げ付かない理由をまったく提示していないし、熱伝導率に関しては大嘘もいいところ。

セラフィットの説明書に載っている「焦げ付かせない方法」は、同じく親油性の高い鉄製フライパンにも同様に言える事である。