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Lattice in the Lettuce

The monologue of a scientist.

熱伝導に見るエセ科学「パーコレーション現象」と第一原理的考察の重要性

科学

私が以前書いた、「量子電池なんてエセ科学だ」記事へのコメントが、このブログとしては結構激しい。当時、原理もクソも考えず頭ごなしに信じ込んだ連中が非難しまくって行ったが、結局バテナイスなんてモノは量産も出荷も出来なかった。もちろん、心ある人は当時から、量子電池がエセ科学だろうと色々な角度からツッコミは入れていたが、信じこんでしまう輩というのは科学者・一般人問わず結構多い。

本題の熱伝導におけるパーコレーション現象もまた、原理的に考えると明らかにおかしいのだが、それらしい解説をくっつけられると、拡散方程式を解ける人すら信じ込んでしまう有様で、まったく、エセ科学の闇は深く、罪もまた深いと実感させられる。

パーコレーションとは

原義はこちら。
http://www.science-t.com/st/_projects/sandt/pdf/M008sample.pdf
しかしここで言うパーコレーションは、エネルギーを伝搬するための伝路という概念を仮定したもの、と言って良い。
例えば電気エネルギーの伝搬は、第一原理的には場の量子論で説明される一方、もうちょっとマクロなサイズでは電磁波や自由電子の動きで説明される。伝路はだいたい人間の目に見える大きさの世界で議論されるため、自由電子の伝播経路が該当する。

自由電子のパーコレーション

自由電子は金属において熱や電気を媒介する存在と言える。もちろん電子は素粒子なので、その動きは個別に説明出来るものではないが、古典的に粒子とみなして話を進めると、軌道内であればどこにでも光速に近い速度で移動可能な点粒子と考える事が出来る。運動しているはずなので、ある瞬間にはベクトルを持つが、平均的にはスカラー量のエネルギーそのものとみなす事も出来る。

自由電子においての伝路、パーコレーションは、この分子軌道とそれを構築している分子鎖を言う。帰属する概念は場の量子論なので、軌道や分子鎖が曲がってようと関係なく、最短距離のみで議論する事が可能になる。よって、電気伝導ではパーコレーションが重要な概念になりうる。

熱伝導のパーコレーション

電気伝導のパーコレーションをそのまま熱伝導にも応用可能かと言えば、否である。
伝路の構築に荷担する組成が電気導通体であれば、熱伝導キャリアは自由電子になるため成り立つのだが、不導体や半導体であったならキャリアはフォノンになるためだ。

フォノンは準粒子であるものの、媒介するのは原子の表面、つまりは結合に関与している最外殻電子となる。自由電子は分子構造全体に広がる大きな海を漂うのに対し、最外殻電子は結合に関するかなり狭い空間に漂うものだ。とあるマクロスコピックな伝路を成立させるために必要な、電子から電子へのエネルギーの受け渡し回数は、最外殻電子の方が自由電子よりも何万倍、何億倍も大きくなる。

そのため、フォノンによる熱伝導の解説には必ず、平均自由行程が議論される。平均自由行程が大きければ高熱伝導であるという理屈はまさに、このエネルギーの受け渡し回数が少ないから、という理屈に帰結している。

ところが熱伝導のパーコレーションでは、高熱伝導性のフィラーが樹脂中に分散されている場合に、フィラー同士の接触があれば伝路が形成されるために熱伝導性が良くなる、といったような乱暴な議論が行われる。
平均自由行程は直線なのだから、曲がりくねった経路のパーコレーションなどまったく無意味だ。球形フィラーの表面構造で既に平均自由行程は阻害され、ついでに曲がりくねった経路でも阻害を受ける。

もしパーコレーションによって平均自由行程を高められる構造が得られると言うのなら、議論する価値はある。しかし熱伝導におけるパーコレーション観念の発端は、最密充填構造による均質性から得られる熱伝導性よりも、伝路概念の方が有効だという裏付けのない議論をイデオロギー的に持つのみで、経路の直線性などといった第一原理的な概念から遠く離れてしまっており、まったくもって議論に値しないと私は思う。

科学における第一原理的な考察の重要性

均質系で実測された熱伝導率を元に、パーコレーション観念において有限要素解析で仮想の熱伝導率を求め、その値に近づけるための基礎研究を行った産学PJがかつてあった。研究発表を聞いていて、産はともかく学まで問題点に気付かなかったのかとほくそ笑んでしまった。
電気伝導なら、先に述べたように結構な近似が出来るものの、熱伝導ではクネクネ折れ曲がった経路が平均自由行程を下げてしまうために、伝路の距離以上の減衰が生まれてしまう。

もし有限要素解析でそういった事を扱うとしたら、パラメータに散乱・輻射を考慮した輸送方程式(ボルツマン式)を与えるのが妥当だろうが、彼らがしていたのは実測の熱伝導率のパラメータ化なので、実験と違う値が出てくるのは予想に難くない。

実測値をパラメータにすれば、シミュレーションの結果も実測値に近似出来るという考え方は、原理が物性物理の範疇を飛び出すと往々にして崩れ去る。こうした誤りから脱出するためには、常に第一原理的な、演繹的な思考プロセスを持てるように訓練しておくのが良い。

何かテーマを思いついたら、まずとことん原理と環境を追求してみて、思いついた内容・イメージが正しいのかどうか熟考すべきだ。思いついた系がミクロンオーダーであれば、ナノ・ピコオーダーと、ミリオーダーの両極端においてすべてのパラメータとプリンシプルが適切なのか、考えなくてはならない。
そうしない研究は往々にして、エセ科学となってしまう。