Lattice in the Lettuce

The monologue of a scientist.

熱硬化性・熱可塑性といういい加減な分類

樹脂の大分類に、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の2つがある。が、私はこの分け方がとても嫌いだ。

樹脂はすべて熱可塑性

基本的に樹脂はすべて、熱可塑性である。温度を上げると固体→液体の相転移をせずに固体から直接分解するもの(フッ素樹脂とか)はあるものの、そういった物でも温度を上げれば軟化するため、熱可塑性に変わりはない。

私が業界に入ってすぐの頃に、当時あまり好きでなかった上役が「シリコーンゴムは熱硬化・熱可塑どっちだ?」という質問をしてきた。当時の私はこれに上手く答えられなかった。

その理由は、こういう紛らわしい事を書く輩が多いためである。
https://www.silicone.jp/contact/qa/qa003.shtml

シリコーンゴムは熱硬化性樹脂です。RTV(室温硬化)ゴムのように室温で硬化するものがありますが、一般に温度が上がると硬化のスピードは速くなります。

これは架橋反応する前の樹脂について言っているから、熱硬化だと言っているだけで、固まった後のシリコーンゴムは熱可塑性である。
ちょっと厭らしい例を挙げると、エポキシ樹脂は未硬化では熱硬化性だが、固まった後はエポキシ基という置換基を失ってしまっているためエポキシ樹脂とは呼べず、エポキシ樹脂はすべて熱硬化性だなんてのもあるが、それにしたって、固まった後の物はやっぱり熱可塑性なのだ。

用途的分類

熱硬化性樹脂が熱硬化性と呼ばれるのは、架橋反応を起こしやすい未反応の官能基を持っており、架橋によって分子量を上げる事が出来るから、である。

架橋は基本的に重合反応だ。ということは、例えばラジカル状態にあるエチレンオリゴマーだって、重合反応による分子量増大性を持っているのだから、熱硬化性樹脂と呼べるではないか。

エチレンラジカルと、世に言う熱硬化性樹脂の違いは、常温常圧で安定して存在出来るか否か、それだけだ。エポキシ基もアクリル基も、三員環やダブルボンドという常温常圧で比較的安定した官能基を持っているため、それ単体を「材料」として扱う事の出来る化学種になる。だから、用途的に、これから熱硬化を起こす事が出来るもの、として、熱硬化性樹脂なんて名前が付く。

しかしこれは、常温常圧という前提を取っ払ったら、例えば200℃くらいにしたら、エポキシドは開環してしまい、他の官能基と容易に反応してしまって、安定しなくなる。つまり熱硬化性樹脂ではなくなってしまうのだ。

であるので、熱硬化性だなどと言うのは樹脂の用途的状態分類であって、樹脂自体の分類とは到底言えない。

ポリエポキシは存在しない

この用途的状態分類が広まってしまった原因は、先ほども挙げたエポキシにあるように思う。他の熱硬化性樹脂は、ウレタンだろうとアクリルだろうとシリコーンだろうと、重合後の分子骨格に官能基の原子配列がそのまま残るため、自己重合ではポリなんちゃらという表現が可能になる。

ところがエポキシだけは、環がブッ壊れて反応するため、ポリエポキシという表現が出来ない(無理やり呼んでる輩は居るが・・・)。一般的にエポキシはエチレンオキシドの三員環を失った瞬間、エポキシではなくなってしまう。なのでしょうがなく、エポキシの重合物とか、エポキシの反応後生成物、という、なんとも間抜けな表現をするしかない。

ここにおいて、エポキシ樹脂は一般的に唯一の、熱硬化性樹脂足りえる。ある特定の熱力学的平衡状態における、用途的一過性の熱硬化性樹脂である。