Lattice in the Lettuce

The monologue of a scientist.

誘電率と誘電正接をとても簡単に説明すると

ふとした切欠で誘電率についてググってみたが、簡単な説明が見当たらない。「誘電率とはなんですか?」的な質問に対して、いきなり誘電分極がどうとかバカな説明が書いてあったり、衒学好き共には困ったものだ。

そこで、ごくごく簡単に説明をしてみる。

誘電率・誘電正接とは?

模型工作で使う、リード線を思い浮かべて欲しい。これを縦に(リード線の延長方向に)半分に割ってみると、導線の上下をプラスチックで挟んでいる構造になる。

プラスチックの原子同士は、電子(軌道電子)の軌道によって結びつけられている。

ここで導線に電気を流すと、導線上を電子(自由電子)が走っていくので、プラスチックの電子に対して斥力が発生する。導線上の電子がプラスチックの電子に近づくと斥力は大きくなり、遠ざかると小さくなる。

これが何度も連続的に起きるので、プラスチックの電子は振動する事になる。なんぼ振動(振幅)するのか?という事を、誘電率(比誘電率、ε)と呼んでいる。

さて、この電子の振動は、多くの場合、原子が構成している物質の「硬さ」に関係する。

硬いものであれば、原子自体は動かず、電子だけが動くに留まるが、プラスチックのように柔らかい場合は、電子の振動に釣られて原子自体も動く事になる。

多少乱暴な言い方をすると、この、原子が釣られてなんぼ動くのかを誘電正接(tanδ)と呼ぶ(本当は、斥力と反力による振動によって消費されるエネルギー損失を呼ぶ)。

なので、プラスチックのようなポリマーは、εは低いがtanδは高くなりやすい。

中学生、いや小学生でも理解出来る内容だ。

ちょっと難しい話

ε、tanδともに、電子と電子の斥力によって起きる現象なので、斥力を受ける側の電子が偏った場所にあると、大きな力が発生しやすくなる。

この偏りを分極と呼び、なんぼ分極してるのかを電気双極子モーメントと呼び、それがなんぼあるのかという事を分極率と呼ぶ。ついでにその偏りが斥力によってなんぼ動くのか、という事を配向分極と呼んでいる。

分極率と誘電特性には相関があって、Clausius-Mossottiの式なんてものもある。また電気双極子モーメントとの相関はDebye式によって説明される。

電気双極子モーメントは分子軌道法シミュレーションなんかで簡単に求められるので、ちょっとやってみたい。

例として、ふっ素樹脂を挙げよう。

PVDF樹脂(ポリフッ化ビニリデン樹脂)と、ETFE樹脂(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体樹脂)の二つは、(CH2CF2)nと(CF2CF2)n(CH2CH2)mとなるので、同分子量のポリマーの組成式は同じになる。

ところがオリゴマーの構造を計算してみると、ETFEは直鎖にフッ素原子が綺麗に並ぶのに対し、PVDFでは片側にフッ素原子が集中し、ついでに直鎖は螺旋構造を描くため、双極子モーメントがまったく違ってくる。

MOPAC2016、PM7で計算した結果では、ETFEが0.924debyeであるのに対し、PVDFは8.406debyeと10倍近くも違う。

なので、この二つの誘電特性はまったく違うものになっている。

ETFEで被覆したリード線はあるが、PVDFで被覆したものはない。もし作ったら火事になるだろう。