Lattice in the Lettuce

The monologue of a scientist.

煙幕特許とは

煙幕特許というものがある。ググってもなぜかさっぱり出てこない。なので解説しておこうと思う。

特許は、発明そのものを登録申請するわけではなく、発明にまつわる思想を登録するものである。これは私の言葉ではなく、特許法第二条第一項に述べられている事だ。
技術的思想と呼んだりもするが、この思想というのが曲者で、今後取ろうとする特許の障害にならない程度に、権利範囲をなるべく広く・深くという発想に結びつく。
それ自体は別に問題ないことだが、これは表の世界の話。

煙幕特許とは、裏の世界の特許だ。

新ビジネスと特許

例えば強電関連のメーカーの研究者が、半導体関係の研究をやって特許申請する事になったとする。大手企業ではこんなのはザラにある。
しかし往々にして、モノ(商品)になるようなレベルに仕上げていくには時間も掛かるし、会社として大々的に「強電やめて半導体やりまーす」などとは言い難い。
特許が公開公報になれば、その会社が「今後半導体やるぞ」ということが世間に知られてしまって色々と面倒くさい事になりかねない。

そこでどうするかというと、その半導体関係の特許を出すのと同時に、まったく嘘っぱちのデタラメな内容の特許を多数出して煙幕として使う、という方法が取られる。
弱電関係の基板やら配線やら、インバーターの構造やら何やら、一切研究も開発もせずテキトーな明細書をパクってきてテキトーに書き換えたりコピペしたりして、50件とか大量にバラ撒いて煙幕にする。
これを煙幕特許と呼ぶわけだが、はっきり言って外道のやる事なので業界全体的にウケは良くない。が、こういう煙幕特許が大好きなクズもそれなりに多い。

当業者ではない審査官が分からない程度の嘘っぱち特許をバンバン出して他社の出鼻を挫いてみたり、その方面の研究を妨害する事が大好き、というイカれたクズ人間が結構いるのだ。他社の研究を阻害するための特許戦略自体は、ごく普通に行われる事なので、それ自体は問題ではない。が、嘘っぱちを並べて妨害するのは別である。
当業者から見れば本当にいい迷惑だ。こんなの出来るわけないだろ!と怒鳴りたくなるような内容の煙幕特許で、自身のまともな発明の特願が進歩性を理由に拒絶された、なんて事になれば怒りもひとしおだ。

これは、発明そのものでなく思想を特許とする、という特許法のあり方に対する弊害だろうと私は思う。

特許分析の対抗策

なお煙幕特許を出す目的はこれだけではなく、競合他社が必ずやってるだろう特許分類検索での多変量解析、例えば共起ネットワーク図なんか書かれて媒介中心を割り出されたりしないように、という目的で煙幕特許を使う場合もある。最近はこっちのほうが多いかも知れない。先に述べた目的の煙幕特許と比べると幾分マシではあるが、うざいことに変わりはない。共起での媒介中心というのは多くの場合、その企業の技術においてのコアコンピタンスであり、他社や投資家に気づかれたくない核の部分でもあるため、小さな企業(と言っても最低規模で3000人くらいの大企業以上での話だが)であればあるほど隠したがる、ということに一定の理解は示すが。

余談だが、明細書の書き方は大手メーカーであれば、研究者・開発者は年次研修で誰しも経験することである。たいていの人は、思想に落とし込まなければならない請求範囲の書式にウンザリする。慣れてしまえば連想ゲームのようでもあり、それなりに面白くもあるが。