Lattice in the Lettuce

The monologue of a scientist.

VHX-7000のレビュー

先日、レビューしてみようと書いたまま放置してた、KEYENCEの新製品VHX-7000マイクロスコープについてレビューしてみる。VHX-7000は導入台数によるスケールメリットを考えない1台あたりの価格で、100mmステージXYZ電動・鏡筒電動、ハイレゾリューションヘッドで20~6000倍まで可能なフル構成レンズ(4本)にした場合、1100万円強と強気の設定である。
今回は、この強気構成での性能をレビューしてみたい。

観察機能

ステージ

試料を乗せるステージは、VHX-5000までと異なって、VHX-6000同様それ自体にAC100Vが供給される構造となっている。また扱いはVHX-6000ともさらに異なり、これまでのKEYENCEのマイクロスコープよりも、普通の光顕(ニコンオリンパス等の)と同じような使い方になっており、VHX-6000等以前の製品と大幅に異なる。

以前のVHX-6000などでは、レンズを上げるかステージを下げるかして、レンズとステージに十分な距離を設け、サンプルをセットするという方法だった。

VHX-7000でサンプルを載せるときは、倍率が一番低い対物レンズに切り替え(手動では切り替えられず、コントローラのノブを最低倍率にする事で、電動で切り替わる)、次いでサンプルを載せたら観察システム右側にあるノブを回してレンズに近づける、という扱い方になる。
このノブは一見すると手動ノブのように思えるが、内部的にはフル電動となっているため、電気的なスイッチでしかない。本体電源がオフの状態でも動くものの、背面にある主電源を落とすと動かない。

ステージ上はサイドカメラによって常にモニタされており、サンプルとレンズが衝突する事はない。いくらノブを回しても、接触しそうな距離になると、それ以上行かなくなる。この方式は、とてもユーザフレンドリーなシステムである。力任せにノブを回してギアを破損するトラブルも防げるだろう。

また、ステージ内部に透過光用のLEDが内蔵されているのはVHX-5000以降にあるシステムだ。透過照明を使う際には円盤状の板(プラスチック製)を外して、ガラス板に切り替える。

オートフォーカス

オートフォーカスが実用になったのはVHX-5000の頃だが、本機のオートフォーカスも十分実用になる。倍率変更はコントローラのノブもしくは画面上の一覧から選ぶが、変更直後にオートフォーカスされるので手間がない。校正スケールのような見やすい物はもとより、表面光沢のあるリジットな物まで概ね何でもフルフォーカスした。
しかし、2500~6000倍のレンズではフルフォーカスよりも若干ズレた位置で止まるようだ。

倍率変更

倍率の変更は、一般的なSEMのように、コントローラのノブを撚るか、画面上の一覧から選ぶ。指定した倍率に最適なレンズが4本の中から自動的に選択され、さらにレンズ内の光学ズーム機構によって倍率が変わる。

VHX-6000までのシステムのように、レンズ(例えばスイングヘッドズームレンズ等)をユーザが直接触って倍率を変えるという事はなくなった。通常の使用ではレンズに触る事自体ありえないため、校正を頻繁に行わなくても、大きなズレは発生しないだろう。

レンズが切り替わる際、通常の光顕では光軸ズレによって観察位置がよくわからなくなる(SEMでも低倍モードから通常モードへの切り替えでよく起きる)という問題があるが、そこは上手く考えられており、光軸ズレをソフトウェア的に補正するユーセントリックシステムが存在する。ユーザは何も考えずに見たい部分をズームするだけで良い。

ただし、2500~6000倍のレンズではリング照明が使えず、同軸落射と透過のみになっており、2000倍までリング照明で見ていたとしても、2500倍で勝手に同軸光に切り替わる。このとき見え方と明るさが大きく変わり、オートフォーカス出来なくなるケースがあった。2500倍以上ではオートフォーカス自体上手く働かない時があるので、手動操作が増えてくる。

また他に気になった点としては、倍率が段階的に固定になっているという事がある。コントローラノブからしてカチカチと段階的になっているし、レンズ一つあたり5段階程度の倍率が設定してあって、合計で20種類くらいの倍率の中から選ぶというスタイルが取られている。

もちろん今までのマイクロスコープも倍率は段階的だったが、別にこのシステムならもっと細かく、例えば10倍毎程度の微細倍率設定が出来ても良いように思われる。

傾斜観察

マイクロスコープの多くは、鏡筒自体を傾ける事で傾斜像を得る事が出来る。本機もそのご多分に漏れず、当然傾斜観察が出来る。

VHX-5000の観察システム以降、鏡筒傾斜ロックに改良が加えられ、またスイングにスプリングが付いたため、不注意で倒してカメラユニットを壊すようなケースは減ったと思う。
本機で特徴的なのは、レゾリューションヘッドで鏡筒のフットプリントが強烈に大きくなっているにも関わらず、ユーセントリックシステムでレンズがステージに当たらないとか、倍率変更で回って当たったりするようなトラブルを防げている点だろうか。まったくもって、よく考えられているといえる。

撮影機能

4K解像度以外の点で大きく変わったのは、照明の方向を自動で変えて凹凸像を得るという、SEMの反射電子凹凸像のような画像が得られる機能がある。

標準の解像度

デフォルト解像度は実は4Kではなく、ドット数にすると2880x2160となる。撮影の際に4000x3000で撮る機能があるため、さほど困る事はない。この解像度ではスクロール等が素早く行え、画面のチラツキもほとんど起きないが、さらに解像度を下げてfpsを向上させるモードもある。

4K解像度

4Kでのスチルは高速に行える。レゾリューションヘッドのCMOSは1/1.7型の1222万画素であり、それ自体で4K解像度に対応しているため、200万画素程度の素子を使っていた旧機種のように画素ずらしで高解像度を出しているわけではないためだ。

Opt-SEM

オプトセム、と呼ぶ。SEMで反射電子像を得ると検出器の設定によって組成像と凹凸像を得る事が出来るが、その凹凸像に「似たような」画像を得ることの出来る機能だ。白黒にしてコントラストを高めると共に、リング照明の片射照明を用い凹凸に対する反射を自在に変えて合成することにより、照明を半球のどこに置いても対応する像が得られる機能・・・という認識でいるが、実際のところは定かでない。キーエンス営業もそう言っていたと思う。

反射率の低いリジットな凹凸物であれば、比較的SEM像に近いものを得られる。サンプルを色々変えてみたところ、透過性のあるもの、特に全反射角の大きいもの、また多結晶で乱反射のあるものなどは、像がぼやけてしまうためよく見えない。

通常の観察である程度輪郭が見えていたり、深度合成でコントラストが普通に見えるものでも、Opt-SEMすると輪郭がはっきり見えなくなるといったケースがあった。光の透過による悪影響が大きいと思う。

こういった点は、VHX-2000にあった青色LEDでの観察の方が、透過率を抑えられるため良いような気がする。また、簡易CLSM機能(レーザーコンフォーカル)を付けてみてはどうかと提案しておく。

加えて、処理時間が半端なく長く、失敗したときの時間的損失を考えると、おいそれとは使いにくい。というか、最初から低真空SEMで見ればいいだろ的な話になりかねない(そこでD500という手もあるが…)。

反射除去オプション

これもVHX-7000で初搭載された機能で、文字通り反射率を低減する。どうやって低減しているかというと、動作を見ている限り片射照明を変えていって一番反射していない画像を得る‥という事だと思うが断定はしない。

全反射しやすい材質には余り効果がなく、そうではない物において斜め角の入射に対して生じやすい局面部分の反射光などを抑制するには効果的なようだ。つまり、凹面になっているサンプルを見る場合や、表面光沢があるものを傾斜観察する場合に効果を発揮するようである。

HDR

HDR(ハイダイナミックレンジ)でもリアルタイムプレビューは行える。ただfpsが極度に落ちるため、スクロール(XYステージ)するとギクシャクした感じになる。この点は以前のVHXと変わっていない。画素数が上昇したわりには速いと思うが、ソフトウェア処理では難しいのだろうと推察する。

リアルタイム深度合成

リアルタイムといっても、HDRと同様に若干の待ちが生じる。また、ピントが合う深度もさほど大きくはない。高倍率にした際、被写界深度不足でボケが生じてしまう僅かな距離を補正するための機能と見て差し支えないだろう。

画像連結

IN点、OUT点を指定するといった旧来の方法以外に、低倍率で全体像を撮り範囲指定してから、高倍率で全体像を連結撮影するといった手法も使えて便利になった。レンズが変わっても撮影ポイントが変化しないのは、ユーセントリック機能の賜物だろう。

測長機能

測長についてはVHX-6000と変わっていないようなので割愛する。メニュー構造の変更でフルオート校正がしやすくなっており(従来の校正板を用いたオート校正も可)、測長前の負担はかなり減ったようには思うが、根本的なところはあまり変わっていないと思う。

ハードウェア構成

PCとしての性能

KEYENCEマイクロスコープはVHX1000以降、本体の内部にWindowsOSのPCを内蔵する構成となっており、本機も例外ではない。OSはWindows10で、CPUは7世代のCore i7を搭載し、メモリはDDR4で32GBと、ハイグレードなPCレベルの構成になっている。以前のマイクロスコープではここまでハイグレードな構成は行っておらず、メモリ量も同年代の標準的なPCより劣っていたはずであり、やはり4K解像度に対応するための対策と見るべきだろう。

大変残念なのは記憶媒体がHDDである点。2.5インチの1TBのHDDを内蔵しており、起動速度が非常に遅い。なぜSSDにしなかったのか、信頼性を巡って社内で議論が分かれたためだろうか?それならRAID 1構成にするなり何なり、色々とやり方があったのではないかと思う。

またグラフィックはCPU統合型のHD Graphicsであり、様々な演算はCPUに頼っていると考えられる。

その他の構成

大きく変わった点としては、コントローラ側についていたランプハウスがなくなり、ヘッド側に移動した点がある。そのため、あの太いライトガイドや同軸光導入のアタッチメントなどが不要となり、非常にスッキリした見た目になった。

ライトガイドがあまり太くないVH5500等を除いて、KEYENCEのVHXシリーズのマイクロスコープを使った事がある人なら、あの強烈に太くて取り回しのしづらいライトガイドは、快くは思っていなかっただろう。それが、レゾリューションヘッドへの信号用ケーブル1本になってしまったのだから、取り回しの良さは絶大だ。というか、ケーブルに一切触らなくて良くなったので、壊れやすそうな部分がなくなっているというのも大きい。

他の変更点として、カメラユニットのコネクタが2つになっている。これはレゾリューションヘッドを使っている場合に、超深度レンズ(というか低倍のSEM)D500向けのカメラユニットが共用出来ないためだと思われる。

D500を併用するなら、レゾリューションヘッド用のコネクタと別のところに挿せばいい。いちいち外したりする必要はない。

総評

価格についてだけ言えば、VHX-6000から2割強の上昇であり、正直お買い得ではない。また倍率だけ見れば、ハイロックスのRH-8800が5000倍まで見れるわけで、価格もRH-8800の方が安価だし、メリットはない。

しかし、撮像素子の高画素化によるデフォルト解像度の向上や、4K画質での撮影、シームレスなレンズ切り替えを実現しているユーセントリックシステム、高倍率時もレンズと試料の接触が起きないようにしているサイドカメラシステムなど、便利に安全に使えるという点において、これまでのマイクロスコープ製品とは一線を画すと断言出来る。

また、ここには書ききれなかった機能が様々に存在し、人によっては、それが素晴らしく使えるものであるケースも多いと思われるので、ぜひ装置デモをしてみるべきだと思う。

これほど優秀な光顕はかつてなかった。惜しむらくは記憶媒体SSDでなく起動に時間がかかるという点、あとはHDRやOpt-SEMシステム、深度合成を組み合わせた場合の処理の遅さくらいだろう。

ぜひとも今後のバージョンアップでは、RAID1のSSD化を行うとともに、画像処理・動画処理のCUDAアクセラレーションにて、リアルタイム性を確保していただきたいと考える。