Lattice in the Lettuce

The monologue of a scientist.

エセ科学 チタン製の鍋

iPhone15Proが熱暴走する、という話について、チタンの熱伝導率の低さに注目している記事がないか探してみたら、エセ科学の与太話を見かけてしまったので、書いておこうと思う。

チタンは冷たくない,チタンの熱伝導率は低い|名取製作所

これは、チタン製のなべなどで見られる特性です。

断っておくが、このサイトに書かれているほとんどの事は正しい。誤りは「チタン製の鍋」だけだと思う。エセ科学というよりもミスリードに近いかもしれないが、チタンはフライパンや食器にこそ使うが、鍋になんか使うわけがない。

チタンは密度(比重)が小さく、熱拡散率と比熱は鉄やアルミなどとあまり変わらない。よって、熱伝導率は低いものの、温まりやすく冷めやすい金属である。ここまでは良い。本当の事だ。問題は「鍋」についてである。

鍋とフライパンはとてもよく似た調理器具ではあるものの、伝熱の仕組みを考えるとかなり違う。鍋は、内側の表面全体を使って、水や油に伝熱し、その水や油の熱を以って調理する。つまりは、水や油の温度を素早く上げられる事が重要だ。鍋の内側表面の温度は、水や油の沸点までしか上昇しない。一方でフライパンは、内側表面に直接食材が接して、食材の温度を直接上昇させる。また、炒めるという工程は「焼く」という操作であるため、表面温度は高い方が良い事になる。

つまり、鍋では100~180℃あたりの伝熱効果が最大になる素材が良く、フライパンではフライパン自体が素早く250~300℃くらいまで上昇する素材が良い、という事になる。伝熱効果(熱伝導率)が低いチタンで鍋を作ったら、水や油の温度はいつまで経っても上昇せず、ガス代の無駄になりかねない。

この事をキチンと書いてあるサイトもあるので、紹介しておこうと思う。

www.maneo.jp


チタン製の鍋というのは、登山用具など、軽さと丈夫さを最重視するケースを除いてまず存在しない。一方、チタン製のフライパンは良く売られている。これは調理の方法の違いによるものである。