Lattice in the Lettuce

The monologue of a scientist.

薪ストーブとペレットストーブのコスパ勝負

寒い時期になってきたので、別荘のペレットストーブに点火してみた。小さく燃える炎を見ながら、薪ストーブからペレットストーブに替えたときに思った、コスパの話を書いてみたい。

別荘のリビング

初めに断っておくと、薪ストーブだろうがペレットストーブだろうが、他の暖房器具に比べたらコスパは死ぬほど悪い。イニシャルはともかく、ランニングコストが最悪だ。だから、本来はコスパなど考えない、道楽のための、趣味のガジェットに他ならない。これについては最後に少し書いておきたい。

燃料の価格

山林を持っていたり、知り合いから無料で薪を貰えるような立場の人は別だが、薪を業者から買うと、だいたい10キロで650円くらいになる。ペレットも同じくらいの価格になる。なので、燃料の価格は大差ないと言える。

排気温度の事

薪ストーブはだいたい、煙突の出口からの煙の温度が200~300℃くらいになる。長い煙突を使って上昇気流で排気しているので、あまり温度を低くすると排気出来なくなる。一方、ペレットストーブはファンを使って強制排気するのと、二重煙突と言ってFFファンヒーター等と同様な熱交換が出来るため、排気温度は100℃以下になるのが普通だ。

薪とペレットで同じ燃料消費率(つまり同じ火力)で使ったとした場合、薪ストーブの方が多くの熱を大気に放出してしまうため、薪ストーブの方がコスパは良くない事が分かる。

排気メカニズムの事

薪ストーブは、燃焼に使う酸素を部屋の中から取り入れる。一部にFF方式の薪ストーブもあるにはあるが稀だ。だから、別途外気を取り入れなければならない。高気密性住宅では使えない、もしくは外気導入口が必要になる。一方、ペレットストーブは基本的にFFなので、燃焼に使う酸素は外から取り入れている。この違いも大きい。

潜熱の事

ここで言う潜熱とは、木材に含まれている水分が気化するときに奪われる熱量の事だ。薪もペレットも、灯油等と違って水分を含んでいる。灯油やガスの燃焼でも水分が発生するので潜熱は存在するが、木材の燃焼では、燃焼で発生する水分とは別に、燃料自体に含まれる水分の気化による熱の損失がある。

水分が多く含まれる燃料を燃やすと、その水分の量だけ、熱の損失が発生する。薪はよく乾燥しているものでも10%近くの水分が入っている。一方ペレットは5%以下だ。この点でも、ペレットの方が有利となる。

木質の事

木材なのだから、薪だろうとペレットだろうと、発生する熱量は同じだろう、というのは素人考え。先の潜熱に加え、木質での違いも存在する。薪は基本的に「全木」である。木材の特定部分だけ、という事はできず、全体を均等に割った一部分になる。一方ペレットは、「全木」というのはあまりなく、ホワイトペレットと言って「幹の部分だけ」が主流だ。幹の部分は灰分が少ない。灰分は「かいぶん」と読むが、ミネラルなど燃焼に関与出来ない成分なので、二酸化炭素や水分にならず、灰として残る。木材の中で灰分は表皮部分に集中しているため、同じ重量の薪とホワイトペレットを燃やした場合、薪の方が灰は多い事になる。

余談だが、ペレットには、ホワイトペレット、全木ペレットの他に、表皮部分だけで作られたバークペレットというのもある。バークペレットは灰分が非常に多いため、大抵のペレットストーブでは非対応とされている。

まとめ

こういった事を考えていくと、薪ストーブはペレットストーブに、ランニングコストでまったく敵わないと言える。

もっとも、薪ストーブは前述の通り、薪を無料か、それに近い価格で入手出来るのなら、この限りではない。ただし、薪は立木を切り出してくればすぐ燃やせるなどという事はなく、乾燥させたり、水分量を適切にするような作業が必要だから、そちらの人件費も馬鹿にならないが。

薪ストーブは道楽の極みであり、実用価値はまったくないと言える。

他の暖房器具の事

暖房器具として最もコスパが良いのは、外気温が-5℃を下回るような地域でもない限りはエアコンである。灯油FFや都市ガスファンヒーターですら敵わない。ペレットストーブは、だいたい1時間あたり1kgくらいのペレットを消費するので、65円/時間。一方エアコンで同じ発熱量を得たとしても、30円/時間くらいにしかならない。灯油FFは45円/時間くらいだから、エアコンがいかに素晴らしいかよく分かるだろう。

これについてはデータを揃えて別途書いてみたい。

幻想の就職氷河期世代

よくありがちな、就職氷河期世代の記事。
dot.asahi.com

25年ほど前に国立大学の大学院を修了した。研究職に就きたかったが、折しも就職氷河期。正社員への道はなく、主に非正規公務員として雇い止めを繰り返し

どこの大学院だよ、と言いたくなる。私も同世代だが、少なくとも理系の国大院卒の同期に、そんな輩を知っている人は皆無だ。

当時もそれ以前も、研究室にはOBがよく遊びに来ていて実情は知れ渡っていたので、企業とパイプのある有力教授の研究室でマスター・ドクターを狙えなかった人は、学卒でサッサと就職してしまっていた。逆に言うと、大学院の指導教官たちは企業と馴れ合って研究費を稼ぎ、コネで学生を斡旋出来る人が多く、そうでない教官たちの研究室はハナから就職とは無縁の高等遊民のたまり場だった。つまり、あの時代に大学院まで行っている時点で、教授コネをアテにして居たか、就職する気がなく遊ぶ時間を増やしたかったかのどちらかである。

参考までに、ドクターまで行くと教授コネでも余程のパワーがないと難しかったから、マスターで打ち止めする人が多かった。一方で当時から外資志向だった先見性に優れた人は、外資とツルんでた教授の居る大学院に行ってドクターになっていたと思う。この場合、一度外資企業に籍をおいて工期博士課程を会社に出してもらう、というのも結構居たはず。

さて、コトが変化したのは国立大学法人法が出来た後の話。それ以前は、国の行政組織の一部としてヌルい運営かつ、教授たちの裁量、要するに企業から研究費を貰う見返りに企業が喜びそうな人材を育てる、というような商売がまかり通っていた。法人法のおかげで表のパフォーマンス(研究内容の先進性とか)だけが重視され、学外への(企業への)政治力はどうでも良くなってしまい、そういった商売が困難になった辺り以降は、教授の権力が相対的に下がってしまったために、コネ就職がしづらくなった。

つまり本当に大変なのは現代の学生・院生であって、就職氷河期とか呼ばれているバブル崩壊直後の話ではない。

www.itmedia.co.jp

こういった記事を読むと、氷河期世代など幻想である事がよく分かると思う。

エセ科学 動物は曲がるときに横Gを出さない

コロナに罹ったようで、自宅待機になった。せっかくの機会なので見識を広げようといろんなものを読んでいるが、何かやたらとエセ科学な記事が目立つなぁと感じた。

kunisawa.net

この国沢という人の記事は、タイトルでミスリードして稼いでる気がしてあまり好きにはなれないが、またしてもそんな気がする。
コメントで「座標系が異なるからだろう」とツッコミが多数挙がっている。

思うに、この国沢さんは、

二輪などバンク可能な車体のとある一点においてのみ、理想状態にある時には、横Gは発生しない

と書くべきだろう。

まず、絶対座標系では移動体がなんであろうが横Gは発生する。これが発生しなければ遠心力が存在しないというトンデモ論になるからだ。
次に、車体の座標系でも、重心をどこに持ってくるかで議論は変化する。重心位置が理想からちょっとでも上にズレたら、やはり横Gは出る。バイクでも路面状況が悪くバンク角を浅くしてしまって、遠心力に持っていかれて事故る事は往々にしてある。

国沢さんは、「動物は」と書いて、シカのように左右の脚を一直線に並べられそうな(実際はそんなことはないが)動物を想像しているのではないだろうか。ではクマはどうだろう?外側の脚と内側の脚で接地圧も違うし、4輪駆動と同じではないか。

モーターボートを例に出しているが、モーターボートが横滑りせずにコーナリングしているところなど見たことがない。

「横Gを出さない」は恐ろしく主観的なエセ科学だと思う。

エセ科学 チタン製の鍋

iPhone15Proが熱暴走する、という話について、チタンの熱伝導率の低さに注目している記事がないか探してみたら、エセ科学の与太話を見かけてしまったので、書いておこうと思う。

チタンは冷たくない,チタンの熱伝導率は低い|名取製作所

これは、チタン製のなべなどで見られる特性です。

断っておくが、このサイトに書かれているほとんどの事は正しい。誤りは「チタン製の鍋」だけだと思う。エセ科学というよりもミスリードに近いかもしれないが、チタンはフライパンや食器にこそ使うが、鍋になんか使うわけがない。

チタンは密度(比重)が小さく、熱拡散率と比熱は鉄やアルミなどとあまり変わらない。よって、熱伝導率は低いものの、温まりやすく冷めやすい金属である。ここまでは良い。本当の事だ。問題は「鍋」についてである。

鍋とフライパンはとてもよく似た調理器具ではあるものの、伝熱の仕組みを考えるとかなり違う。鍋は、内側の表面全体を使って、水や油に伝熱し、その水や油の熱を以って調理する。つまりは、水や油の温度を素早く上げられる事が重要だ。鍋の内側表面の温度は、水や油の沸点までしか上昇しない。一方でフライパンは、内側表面に直接食材が接して、食材の温度を直接上昇させる。また、炒めるという工程は「焼く」という操作であるため、表面温度は高い方が良い事になる。

つまり、鍋では100~180℃あたりの伝熱効果が最大になる素材が良く、フライパンではフライパン自体が素早く250~300℃くらいまで上昇する素材が良い、という事になる。伝熱効果(熱伝導率)が低いチタンで鍋を作ったら、水や油の温度はいつまで経っても上昇せず、ガス代の無駄になりかねない。

この事をキチンと書いてあるサイトもあるので、紹介しておこうと思う。

www.maneo.jp


チタン製の鍋というのは、登山用具など、軽さと丈夫さを最重視するケースを除いてまず存在しない。一方、チタン製のフライパンは良く売られている。これは調理の方法の違いによるものである。

ニュートラルにすると燃費良くなるのは当たり前

ベストカーWebの馬鹿記者が書いた記事。
bestcarweb.jp

いわく、

アクセル全閉の時は、燃料を噴射しない燃料カット、ハイブリッド車や電気自動車なら回生制動となる。それゆえ、エネルギー消費ゼロなので燃費/電費はマックス状態となる。

クルマのことをちょっとでも知っていたら、こんなのオカシイとすぐに気付くだろう。

ガソリン車でニュートラルにせずアクセル全閉したらエンブレがかかる。ハイブリッド車アイドリングストップに入る(パラレルハイブリッドの場合エンジンは切り離されており実質的にニュートラル状態になっている)が、回生制動で回収出来るエネルギーはごくわずかだ。

エネルギー消費はゼロ?とんでもない。クルマの運動エネルギー(慣性運動エネルギー)をどんどん消費しまくっている真っ最中だ。
ニュートラルにして空転させた方が慣性運動エネルギーの消費は少なくて済むので、当然燃費は良くなる。
エンジンやモーターのエネルギー効率が100%、さらにタイヤや車輪のエネルギーロスが0%、ついでに機械的ロスが0%にならない限り、つまり第二種永久機関でない限り、加速させるのに必要なエネルギーと同等には絶対になりえない。

空転させることで運動エネルギー消費効率を上げるのは、新幹線などの電車もよくやっている。一定速度まで加速したら、モーターを空転させて回生ブレーキ発生を止めている。

こんな中学生レベルの物理すら分からない馬鹿が記者やって、物理学に大いに反する嘘記事書いてドヤってるとか笑わせる。記者辞めて中学校に入り直せと言いたい。

煙幕特許とは

煙幕特許というものがある。ググってもなぜかさっぱり出てこない。なので解説しておこうと思う。

特許は、発明そのものを登録申請するわけではなく、発明にまつわる思想を登録するものである。これは私の言葉ではなく、特許法第二条第一項に述べられている事だ。
技術的思想と呼んだりもするが、この思想というのが曲者で、今後取ろうとする特許の障害にならない程度に、権利範囲をなるべく広く・深くという発想に結びつく。
それ自体は別に問題ないことだが、これは表の世界の話。

煙幕特許とは、裏の世界の特許だ。

新ビジネスと特許

例えば強電関連のメーカーの研究者が、半導体関係の研究をやって特許申請する事になったとする。大手企業ではこんなのはザラにある。
しかし往々にして、モノ(商品)になるようなレベルに仕上げていくには時間も掛かるし、会社として大々的に「強電やめて半導体やりまーす」などとは言い難い。
特許が公開公報になれば、その会社が「今後半導体やるぞ」ということが世間に知られてしまって色々と面倒くさい事になりかねない。

そこでどうするかというと、その半導体関係の特許を出すのと同時に、まったく嘘っぱちのデタラメな内容の特許を多数出して煙幕として使う、という方法が取られる。
弱電関係の基板やら配線やら、インバーターの構造やら何やら、一切研究も開発もせずテキトーな明細書をパクってきてテキトーに書き換えたりコピペしたりして、50件とか大量にバラ撒いて煙幕にする。
これを煙幕特許と呼ぶわけだが、はっきり言って外道のやる事なので業界全体的にウケは良くない。が、こういう煙幕特許が大好きなクズもそれなりに多い。

当業者ではない審査官が分からない程度の嘘っぱち特許をバンバン出して他社の出鼻を挫いてみたり、その方面の研究を妨害する事が大好き、というイカれたクズ人間が結構いるのだ。他社の研究を阻害するための特許戦略自体は、ごく普通に行われる事なので、それ自体は問題ではない。が、嘘っぱちを並べて妨害するのは別である。
当業者から見れば本当にいい迷惑だ。こんなの出来るわけないだろ!と怒鳴りたくなるような内容の煙幕特許で、自身のまともな発明の特願が進歩性を理由に拒絶された、なんて事になれば怒りもひとしおだ。

これは、発明そのものでなく思想を特許とする、という特許法のあり方に対する弊害だろうと私は思う。

特許分析の対抗策

なお煙幕特許を出す目的はこれだけではなく、競合他社が必ずやってるだろう特許分類検索での多変量解析、例えば共起ネットワーク図なんか書かれて媒介中心を割り出されたりしないように、という目的で煙幕特許を使う場合もある。最近はこっちのほうが多いかも知れない。先に述べた目的の煙幕特許と比べると幾分マシではあるが、うざいことに変わりはない。共起での媒介中心というのは多くの場合、その企業の技術においてのコアコンピタンスであり、他社や投資家に気づかれたくない核の部分でもあるため、小さな企業(と言っても最低規模で3000人くらいの大企業以上での話だが)であればあるほど隠したがる、ということに一定の理解は示すが。

余談だが、明細書の書き方は大手メーカーであれば、研究者・開発者は年次研修で誰しも経験することである。たいていの人は、思想に落とし込まなければならない請求範囲の書式にウンザリする。慣れてしまえば連想ゲームのようでもあり、それなりに面白くもあるが。